共に歩く ─4─  





ハァハァハァハァハァ

夕暮れの時が過ぎようとする頃、俺は走っていた
息は切れ、まだ寒い季節だというのに額には汗が噴き出ている
持っている鞄が邪魔だ。重荷となって俺の体力を更に奪っていく
だんだんと足も重くなってきた。坂道がきつい
だいぶ走ったんだからそろそろ歩いてもいいんじゃないだろうか
考えてる事と裏腹に足は動き続ける。地を蹴り、腕を振り、顔は真っ直ぐ前を向き、ただ走る

胸の中で黒い固まりがうごめいている
これはなんだ?よくわからない。けどなんだかおもしろくないし、気に食わない
その黒い塊が俺を走らせている。疲れているのに
でも、走らなければ気がすまない

やっと家が見えてきた
門をくぐり、玄関から入らずにそのまま庭へ行って縁側から部屋に飛び込む
電気もつけずに、ごろんと大の字に寝転んだ


ハァハァハァ、ハァハァ、ハァッ・・・・


ドクンドクンと心臓の音が聞こえてくる。リズム良く鳴るそれは、まるで太鼓みたいだなと思った
息を整えようとするが、体は酸素を求めて更に激しくなる
苦しい。もう動きたくない。苦しい、胸が痛い。


「シロウ?帰ったのですか?」


戸の向こうからセイバーの声が聞こえる
なんとか息を整えて返事を返した


「ああ。悪い。挨拶もしないで」


開けてくれてかまわないと言うと、音も立てずに戸が開く


「おかえりなさい」
「ただいま、走って帰ってきたからちょっと休憩してたんだ」
「そうですか。何か急ぎの用でも?」
「いや、気分的に走りたかっただけだ」
「ほう。何か気に障ることでもあったのですか?」


的確に当ててくる


「いや、どうだろう。わからないけどなんでそうだと思ったんだ?」
「一番の理由は貴方の表情です」
「え、怒ってるか?」
「口は笑っているのですが眉だけ逆立っています。どのようにしたらそのような表情が出来るのか不思議です」


セイバーは呆れてるようだ


「む。すまん。たいしたことはないんだが、落ち着いてから居間に行くよ。先に待っててくれ」
「わかりました」


無理をしないようにと心配そうな目が俺の頭にこびりつく
・・・・セイバーに無駄な心配をさせてしまった。ふぅ。頭を冷やして飯を作ろう。心配させた分、俺は元気だと知らせなければ
着替えをすまし、洗面所で顔を洗ってから居間へと向かった


ガラッ


「遅かったわね」

「なっ」


どんっと当たり前の用にお茶をすすり、昨日買ってきたお茶請けに手を出してるツインテールの女の子


「なんでいるんだよ」
「居ちゃ悪いの?」
「そういうわけじゃないけど来るなんて聞いてないぞ」
「言ってないからね。それに急に決まったから」


急に?


「私が誘ったんです」


エプロン姿の桜がひょこっと出てきた


「ちょうど帰りが一緒になって、久しぶりに一緒にと思ったんですけど駄目でした?」
「いや、そんなことはない」


ないけど
慎二との会話が走馬灯のように蘇ってくる
かまいやしない。けどさっきの今ではなんだか居心地が悪いのだ
それに気のせいか、なんか遠坂不機嫌じゃないか?
ツーンと俺の方を見抜きもせず、テレビを見ている


「さて、今日は何作るんだ?手伝うよ」


そのまま座るのもあれなので桜の元へ行く


「先輩も姉さんと一緒に座っててください」


どうやら下準備はほとんど終わらせたみたいで、今はサラダの盛り付けをしている


「む、そうか。なら任せる」
「はい」


俺に出来ることがないのなら仕方ない
セイバーに心配ないと見せようとしたのが空回りになったのは少し寂しい
だが桜の用意した晩御飯を食べれるならいいか
半分つけたエプロンをはずし、定位置に座る
横ではセイバーが大判焼きを嬉しそうに頬張っている。スーパーの帰りに買ってきたのだろう
もぐもぐと懸命に口を動かすセイバー。これがあのアーサー王ねぇ・・・・
会話はなく、ただテレビ画面を眺める。その合間に聞こえてくる丁寧な包丁の音がなんとも言えない
夕方のニュース番組では政治やら芸能人が離婚したなど騒いでいる
だが内容なんててんで入ってこなかった
慎二の言葉が頭に流れる



『へぇ。まるで召使いだな。遠坂にいいように使われてるんじゃないの?』



ムカムカと腹の裏辺りで黒いものが蠢いている
なんともいえないような苛立ちが俺を不快にさせる

このままだとダメだ

俺は席を立った


「すまん。調子がよくないから出来るまで寝とくよ。後で呼んでもらえるか?」


そう言い残し、居間を出て部屋に向かう
もう一度顔を洗おうか、でもあまり効果がない気がする
慎二の言葉がまた俺の頭に響く


『まるで召使いだな』


俺への侮辱はかまわない。だけど遠坂への侮辱は何がなんであろうが許せない

遠坂はそんな奴じゃない。ふざけて言うことはあっても本当にそうとは思っていない
わかってない奴が遠坂のことを言わないでほしい
あいつは実際はいじめっこで学校と全然違うし、猫被ってるけど
本当は周りを見てるやつで、きついこと言いながら甘い、とんでもなくお人好しな奴なんだ
だからあいつを表面でしかしらない奴が遠坂のことを悪く言わないで欲しい


廊下から冷たい風が吹いてくる。そういえば戸を開けたままだったかな
気持ちを冷やすためそのままそこに座った
季節はもう3月になろうとしてる
陽射しはだんだんと暖かくなってきたのだが風はまだ冷たい
夜と朝方は特に冷え込む。今夜も寒いだろう 早く春が来ないものか

春が来たら3年生だ
高校なんてあっというまだな。卒業だって気が早いけど間近だ
来年の今頃、俺は何をしてるのだろう
今と変わらず土蔵で鍛練を続けてるのだろうか
それでセイバーと稽古をして遠坂に魔術を教わり藤ねえに飯を作り桜と朝御飯を作る
ずっとこんな日々が続くのかな
期待しつつも続かないだろうと思った
遠坂は卒業と同時にロンドンに行く
使い魔であるセイバーももちろんついて行くだろう。
別に1,2ヶ月ならセイバーの魔力で持ちそうだが根本的には魔力供給がないと消えてしまうのだし

そしたらまた3人だな
寂しくないと言ったら嘘になるだろう
でも、それは決定事項だ

別れはきっと来る
目には見えなくても、確実に近づいてる
それは、きっと──


「せんぱーい。ご飯出来ました」


居間に入るとすでに藤ねえが定位置に座り煮物を箸でつまんでいた
まだ口に入れていないだけ褒めてやるべきなのか
騒がしい食事が始まる。8割りが藤ねえの声、残りはそれに答える俺らの声
今日は遠坂も居るから3割りくらいは俺たちかもしれない
こんな毎日がそのうち終わるなんて信じられないな

用意は桜がしてくれたので片付けは俺が率先した。
桜は片付けもすると言ってくれたけどそこまで任せてられない
無理矢理座りこませ、今は大人しくテレビを見てくれている
横にはみかんを器用に剥き口に運ぶ虎
たまには洗い物をしてもらいたいものだが、皿を割られては困るので言わないでおこう
その代わりに風呂でも入れてきてもらうか
エプロンをはずし席につく


「お疲れさまです」


熱いお茶が差し出される。ありがたい
ずずっ。やっぱり自分で入れるお茶より他の人に入れてもらう方がおいしく感じる
風呂が入ったみたいなのでセイバーが席を立ち、同時に帰ろうと桜と藤ねえも立ち上がった
玄関まで見送り居間に戻ると遠坂は動かずに座っている
テレビが気になるのか立とうとしない
確かこのドラマは7時から10時までのスペシャル番組だ。終わるまで居るつもりか?

遠坂の茶のみが空になっているので新しい茶を入れ自分のにも継ぎ足す
礼を言うが目線はテレビに釘付け。そんなにおもしろいドラマなのか
途中からしか見ていないのでいまいち話はわからない
新聞の予告覧を見ると「一生一度の恋」などと書かれてる下に一種の癌か何かの名前が書いてある
予告からして結果はだいたいわかっているのにドラマというものはつい見てしまうものなんだな
新聞を閉じ画面を見ると病院に入院したところだった。何もすることはないし、俺も傍観することにしよう




しんみりとしたバラードと同時にテロップが流れていく、遠坂はティッシュで目頭を押さえていた
なかなかの作品だった。最後のクライマックスの部分では思わずポロリと涙が出てしまいそうになった

すっかり冷えたお茶を飲み干し、体を伸ばす。久しぶりにテレビに食いついていたものだから肩が痛い
遠坂はやっと1つ溜息をしてこちらに向き直った
そこから15分ほどドラマについての意見や感想を言い合い、ふと会話が途切れたところで立ち上がった


「じゃ、帰るわ」
「遅いけど大丈夫か?」


時計は10時半を指そうとしている


「大丈夫よ。じゃ、お邪魔しました」


赤いコートを羽織り鞄を持ったころ、俺も立ち上がり一緒に玄関へ向かった
流れてるニュースが最近変質者の出現が多いと告げている
そういえば学校でも藤ねえが言ってたな
狙われているのは年頃の女の子ばかりなので帰りが遅くなるようなら絶対1人では帰ってはいけないと
ただでさえ目立つ奴なのにこの赤いコートは更に人を寄せ付けるんじゃなかろうか


「また明日ね」


いつも通りに遠坂は1人で玄関を出て行く


「遠坂っ」


知らず呼び止めていた


「何?」
「女の子を、1人で帰らせるわけにはいかない」


何よ今更、と言いながら戸に差し掛かった手を引いた
俺は今、報道してたニュースと学校でその事に関して言われなかったのかと問う


「今までだって1人だったじゃない」
「それはアーチャーが居たからで、今は1人なんだから危ないだろ」
「そこらへんの男に襲われても負けないわよ」


確かに遠坂なら逆に相手をノックダウンさせてしまいそうだ
だけど違う


「そういう問題じゃない。俺が心配だから送るんだ」


もし遠坂になにかあったらどうするんだ。俺はそのどうにかした相手を殺しかねない
遠坂は目を大きく開けてなぜか固まっている


「遠坂?言っておくけど断られても後ろからついていくからな」
「そ、そっちの方が迷惑よ。いいわ、暇なら送ってもらおうかしら。帰るまで1人で暇だし」
「よし。なら行くか、セイバー呼んで来る」
「セイバーも一緒なの?」
「3人の方が楽しいだろ?」


少しの沈黙の後


「ま、いいけど」


小さな溜息とそんな言葉を吐き出した



そして現在、俺はセイバーと遠坂と肩を並べて歩いている
この時間になると出歩く者は少なく、数えるほどしか居ない
この中を1人で帰らすところだったのか
危ない。蛍光灯の明かりが頼りだが、あの光もなんだか禍々しく不気味に感じられる
唯一、空を見上げると美しい光を感じられた

大きな月と煌めく星
何日か経てば綺麗な満月になりそうだ


「そういえば凛、今日来た時怒っていましたか?」


遠坂が学校で起こった事を話終えた途端、セイバーが実に興味があることを聞いてくれた


「え?ああ。ちょっとだけね」
「やはり。ストレスを溜め込むのは良くない。私で良ければ聞きますが」
「・・・・別に。テレビ見てたら忘れたわ」
「それならいいのですが。無理をなさらないようにしてください」
「大丈夫よ。どっかの誰かさんが忘れなければね」
「?」


ちょっと待て。その言い草だと原因は俺ってことか?
はて、遠坂との約束?
首を傾ける


「ふんっ。別にいいけど。おかげで三枝さんのお弁当を頂けたから」
「あ」


しまった。そういえば遠坂の弁当を作るはずだったんだ
藤ねえの酒の相手をしてたらすっかり忘れてしまっていた


「・・・・はぁ。シロウ、約束を忘れるとは何事ですか」


遠坂の代わりとセイバーがギロリと俺を睨む。食べ物に関するとセイバーはちょっと怖い
しかし今回は全面的に俺が悪い。寝不足だったからといって約束を忘なんて


「・・・・悪い遠坂、俺から言っておいて。明日は特上のを作っていくから許してくれないか」


遠坂が怒るのも無理はない
昼の用意もせず教室で待っていたんだろうか、三枝さんが居なかったらもっと遠坂を傷つけたに違いない
すまないと遠坂の背中に謝る。本当は目を見て言いたかったんだが遠坂がどんどん進んでいくため言えなかった


足を止め、ゆっくり振り返る


「じゃあ今度こそ約束。明日は忘れないでよね」


その言葉に安心して、肩の力が少し抜けた


「ああ。何がなんでも忘れない。忘れたら俺を好きにしてくれ」
「あら。いいの?なら忘れるように細工しようかな」
「な、それは反則だ!」


嘘よ。と可憐に笑う彼女の姿を月が照らしていた


───ああ。綺麗だ。その揺れる黒髪も嬉しそうに笑う顔も、1つ1つが俺の目を惹きつける



遠坂を家の前まで送り届け、セイバーと2人で帰路につく
明日の弁当には何を入れようか。三枝さんにも何かお礼をした方がいいのかなとセイバーに意見を聞く
シロウの作る物でしたらなんでもかまいません。言葉だけで十分でしょう、プレゼントでもあげたら大変ですと言ってくれた
大変とは何が大変なのだろうか。三枝さんああ見えて甘い物は嫌いなのか?クッキーでも作ろうとしたんだが
とりあえずセイバーの意見を重視して三枝さんには言葉でお礼を言おう





   ***





翌日、廊下を歩いていると珍しい組み合わせを見た
慎二と遠坂。何やら2人で喋っている
早速アピールしてるのか。行動が早い奴
何を話してるのか気になるが、あの組み合わせに乱入するのは気が引ける
昨日言われたところだしな。でもわざわざ通り道で喋らなくてもいいのに
目の前のA組に入ってチャイムが鳴るのを待つことにしよう
A組を覗くと美綴が居た。向こうも視線に気付いたらしくこっちにでてきてくれる


「珍しいね。衛宮がA組に来るなんて」
「ちょっとな」
「?」


俺の目線の先に気づいた美綴の肩が大袈裟にあがり


「げっ」


なんて奇妙な物を見たような声を出した


「慎二と遠坂?」
「いかにも」
「慎二もこりないねぇ」


溜息が聞こえる


「前からなのか?」
「1年の頃からじゃない?ずっと遠坂狙いみたいだから」
「へぇ・・・。ずっと片想いか」


そういえば遠坂から以前、慎二に告白されたことがあったとかなんとか聞いた覚えがある


「そんな綺麗な物じゃないだろ。純粋な奴なら苦労しないんだけどね」
「それだったら弓道部も安泰だな」
「本当だよ。それならもっとまともに遠坂に相手してもらえるかもしれないのに」


まぁ何がどうあれ相手があの遠坂なら無理か。なんてぼやいている


「それにしてもいいのかい?」
「?何がだ?」
「おたくの女の子が他の男と話してたら焼もちの1つは妬くもんだろ?」


それともそれくらい許せるほど寛大な心を持ってるのか。なんて言いながらにやにやと笑っている
その笑みの意図が全然わからない
ただあまりいいものではないとだけ感じられる。だってにやにやだぞ


「ま、どっちにしろ安心しな。あたしの見たところ5分が限界だよ」


っと美綴の予想通り遠坂は慎二を置いてこっちに来た


「あら、おはよう」
「おはよう」
「あたしには挨拶なしかい?」
「綾子には朝一番に挨拶したじゃない。どうしたの2人で居るなんて」
「ああ。ちょっとな」


思わず言葉を濁らす。遠坂と慎二が廊下で話していたから通れなかったなんて理由おかしいだろ?


「へー。2人で話すほど仲良かったっけ?」
「弓道部が一緒だったの知ってるだろう?世間話の1つや2つくらいはするさ」
「ふーん。わざわざ教室を訪ねてねぇ」


なぜそんな疑いの目で俺を見るんだ


「おーっと。待った待った。あたしを喧嘩に巻き込まないでくれる?慎二と話してたから観察してただけだよ」
「観察?元気かいなんて普通の事言ってきたから喋ってただけよ」
「それだけ?」
「ええ。その後、最近は暇かとか欲しい物はないかとか言って来たから置いてきた」


そんな事聞いてどうするつもりなのかしらね。と頭を傾げている


「置いてくるだけじゃ駄目だね。ここはガツンと言ってやらないと」


何を言うつもりだ
慎二に学校に来れない程の精神的ダメージでも与えるのだろうか



「彼氏が出来ましたので、と言えば慎二も寄ってこないだろう」


・・・・・・・・・・


びっくり発言に開いた口が閉まらない
と、遠坂に彼氏?いつの間に?相手は誰なんだ?俺の知ってる奴か?
だから最近遠坂の魔術教室がないのか?どんどん聞きたい事が浮かんでくる
美綴の台詞は慎二に与える前に、俺に精神的ダメージを与えたようだ


「何よそれ」


腕を組み、美綴を見据える遠坂


「何ってこの前言ってたじゃないか。蒔寺と更衣室で」
「・・・・ああ。あれ?」


一体どれなんだ。出来たら俺にもわかるように説明して欲しい


「ったく、衛宮も隅におけないねぇ」
「は?」


なぜ俺の名前が出てくるのか


「綾子」


名前を呼ばれ、遠坂の顔を見た美綴の顔が確かに強張ったのを俺は見た
なぜだか今は遠坂の顔を見ない方がいい気がする
ってことで俺はタイミングよく鳴ってくれたチャイムのおかげで、自然にそこから抜け出したのだった



授業は国語、英語と藤ねえの顔を見てからの昼となった
鞄から弁当箱を2つ出し、見られる前にA組に向かう
約束通り、今日は俺が遠坂を誘おう
廊下に出るとどうしても人目を惹いてしまう遠坂の姿が見えた
もしかしたら誘いやすいように廊下に出てくれているのか
ありがたい。流石に教室に行って呼ぶのは恥ずかしいところだった


「遠さ・・・・」


言い止まる
遠坂は誰かと話している。それは休み時間と同じ慎二だった
2人の会話は耳を澄ませば聞こえてきそうだ


「一緒に食べないかい?」


いつもの人懐っこい笑顔で遠坂に笑いかけている


「ごめんなさい。先約があるの」


それに遠坂もいつも通りの笑顔を返す


「いいじゃん。たまには僕と食べよう」
「約束を破るわけにはいかないわ」


一歩進もうとするとその前に慎二が前に立ち、行く手を塞ぐ


「なら明日は僕と食べよう」


キラキラのこの上ない笑顔を見せる
中身もあんなんだったらいいんだけどな、なんてつい思ってしまった


「明日も明後日もずっと予約があるわ」


だからごめんなさいね。と笑顔を残し、更に一歩進むとまたもや塞がれる
そろそろイラッとしてきたのか、どこかしら笑顔が引きつっているように見える


「間桐くん?私の言った事聞いてたのかしら?」
「ああ。聞いてたよ。ただ相手を知りたくてさ」
「あなたには関係ないでしょう?」
「あるさ。教えてくれてもかまわないだろう?相手によってはチャンスがあるかもと思ってね」


そのチャンスがある相手とは昨日の事から考えて俺の事を言ってるのだろうか


「貴方が何を考えているのかわからないけど、1つだけ言える事があるわ」
「何?」


一息置いて、遠坂は今までの口調と変わらず



「天地がひっくり返る事でもない限り、あなたと昼を共にすることはないと思うのでこれからは誘わないでもらえる?」


いちいち断るの面倒だからと言い捨て、慎二を置いた遠坂は俺の前に歩いて来た
思わず慎二に同情する。あんなの言われた日には一生のトラウマになって二度と女の子を昼に誘えなくなってしまう

慎二の遠坂を睨む目と合う
昨日の事があって正直気まずいが、目の前の遠坂にじーっと見られてしまっては覚悟を決めなきゃいけない
ってかそんなに見られたら照れる
早く言いなさいよとせかしてるようだ。周りの視線がどうしても気になるし慎二の視線も痛い


「・・・・・上、行くか」


ボソッと遠坂に聞こえるくらいの声で言う。これが精一杯だ。
返事はなく、遠坂は少し微笑んで歩いて行った
慌てて俺もついていく。ああ。明日は並んで行きたい






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