共に歩く ─1─
窓から差し込む光が瞼を明るく照らし、睡魔を徐々に払っていく
布団の中は居心地が良く、まだ寝ていたいと思うがそろそろ出なければ朝ご飯に間に合いそうにない
桜に任せてばかりでは気が引けるので、もぞもぞと布団から起き上がった
ぐ〜っと伸びをして布団をたたむ。パジャマを脱ぐと冬の冷たい風が、隙間から入ってきて身震いした
「く〜。一気に目が覚めた」
早々と制服に着替え居間に移動した。エプロンをつけ、冷蔵庫を確認する
味噌汁には・・・お、たまねぎがあるな。鮭も昨日買っておいたしそれを焼いて・・・・
大体決まったところで鍋を取り出し、テキパキと準備をしていく
下ごしらえがもうすぐ出来るというところでインターホンが鳴り、聞きなれた声が聞こえてきた
「お邪魔しまーす」
毎朝来てくれてるというのに律儀にインターホンを鳴らす桜
別に鳴らさなくてもいいのに。以前言ったけど変わらず押してから入ってくる
桜は案外強情だと思う。まぁ前に比べて自分の意見を言うようになったことはいいことだ
「先輩おはようございます」
「おはよう」
「もう準備終わっちゃいましたか?」
「ああ。ほとんど出来たから食器の用意を頼む」
「はい。わかりました」
こっちの料理を確認して早々と食器を用意していく
もうどこに何があるかなんて俺より知ってるんじゃないだろうか
「ちょっと早いけどもう食べるか」
はい、っと高らかな声が返ってきた
食器を並べて手を合わせる
いただきま・・・・っと桜と目が合いふと居ない存在に気がつく
「しまった」
いつも自然に居るものだから居るものだと思っていたが、そういえば今日はまだ顔を合わせていなかった
そそくさと立ち上がり部屋へ向かう
コンコンッ
「朝飯できたぞ」
すぐさま戸が開き、中から金色の髪をした少女が顔を覗かせた
「おはようございます。シロウ」
陽射しに照らされた髪がキラキラと輝き、それに負けない可憐な笑顔に思わず見とれてしまう
「おはよう。珍しく遅いじゃないか」
「そんなことはない。今日はシロウが早いくらいだ。いつもより15分も早いではないですか」
「思ったよりスムーズに進んだから早めに準備が出来たんだよ。遅いよりはいいだろ?」
「確かに遅いよりはいいと思いますが、これでは大河が来る前には終わってしまいそうですね」
「藤ねぇの分はちゃんと取ってあるから大丈夫だよ」
「違います。せっかく顔を合わせて食べるというのに私達が先に食べ終えていたら大河も寂しいでしょう」
今の言葉を藤ねぇが聞いたらさぞ喜ぶだろう。オロロと言いながら泣き崩れるかもしれない
「シロウ、早く行かないとせっかくの味噌汁が冷めてしまいますよ」
「ああ。すぐ行くよ」
セイバーは軽い足取りで進んでいく
何かと言うけれどセイバーは藤ねえ並に食事を楽しみにしてると思うのは俺の憶測ではないと思う
本人に言うと怒りそうなので言わないけど
「セイバーさんおはようございます」
「おはよう桜。今日は桜も早いのですね」
「本当は私が先に作っちゃおうと早めに来たんですけど、先越されちゃいました」
「ほう。そんなに早起きをしたのですか?」
「い、いえ。ただたんに早く目が覚めただけですよ」
埃でも舞っているのかあわあわと桜は手を振っている
セイバーが座るとお茶碗を手渡した。俺の分はすでに入れたみたいで目の前に置いてある
いい嫁さんになるよな。桜を嫁にした男を俺は妬んでしまうかもしれない
「ありがとう。では、いただきます」
「いただきます」
「はい、いただきます」
もぐもぐと米を口に運ぶ。
しばらくすると藤ねえがやって来て、やっといつのも朝の風景になった
朝から本当に元気な人だ。まぁこの人から元気を取り除いたら何が残るって話なのだが
綺麗さっぱりおかずのなくなった食器を台所に運ぶ。自分の作った物をこんな綺麗に食べてくれるのは本当に気分がいいものだ
「じゃあ先輩。朝練行ってきますね。洗い物お願いします」
「ああ。頑張れよ」
「はい。いってきます」
「いってくるねー。遅刻しちゃ駄目よー」
2人の背中を見送って洗い物の続きに取りかかった
──さて、洗い物も終わったし、学校に行こう
セイバーに手伝ってもらったからいつもより早く終わらすことが出来た
早い気もするが一成のやつなら来てるだろう。生徒会で時間を潰すかな
最近は何か故障した物はなかったっけ、久々にガラクタいじりでもしたい
まぁそんな都合よく故障した物なんてないだろうが。
いや、そういえば天寿をまっとうされたテレビがあるなんて言ってたような
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃいシロウ。気をつけて」
セイバーに見送ってもらい家を後にする
こうやって誰かに見送ってもらえるなんて1年前までは思ってもいなかった
あの頃は俺が最後に家を出ていたし、うん。誰にか見送ってもらえるのってなんか嬉しい
今日は朝からいい気分だ
学校への坂道を歩いていると見慣れた奴が前に居た
そいつは赤いコートを纏って堂々と歩いていく
すれ違った男子生徒がその背中を見つめていた
「朝から遠坂さん見れるなんてラッキー!」
「やっぱかわいいよな」
さすが容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も抜群な遠坂さん
普通の男子生徒はあいつの表向きしか知らないからなあ
ああ。俺もあの頃に戻れたらどれだけ幸せか
「あら、衛宮くん。何朝からぼーっとしてるのかしら」
はっ、考えているうちに遠坂に並んでしまったようだ
「おはよう遠坂。今日は早いんだな」
「早いのは衛宮くんでしょ。あたしはいつもこれくらいの時間だし」
「そうなのか?遠坂、朝弱かったからもうちょっと遅いんだと思ってた」
「あんたそれ他の人に言わないでよね」
ギロッと言えばどうなるかわかってるんでしょうねという視線が俺の胸をえぐる
どうやら朝に弱いというのは遠坂の中で秘密らしい
別に優等生が朝弱くても問題はないと思うんだが・・・・遠坂の中では違うのか
「ああ。命は大事だからな。言わない事にする」
「・・・・なんか言い回しがむかつくけど許してあげるわ」
朝から疲れるしねっとため息と吐き出した
「?遠坂なんか疲れてないか?体だるそうだぞ?」
「え?うそ!?わかる!?」
あちゃー。なんて顔を手で覆って
今まで体調だって完璧にしてきたのに・・・・こんなんだったら昨日早く寝たらよかった。
もしかしてクマなんて出来てないでしょうね・・・・。なんてブツブツ呟いてる
「あ、いや。じっくり見たら体が重そうだなーって。だからそんな周りにはわからないと思うぞ?」
「じっくりってどこ見てんのよスケベ」
「ばっ!そういう意味じゃなくてだな!!こう・・・なんていうかいつもより足取りが重いっていうか!」
「へーへー。そんな目で私を見てたんだ?」
「ばかっ!だから違うって言ってるだろ!」
こいつ!なんつー嫌な笑みを浮かべてるんだ!
俺の反応を見て確実に楽しんでいる
表向きでは優等生。実際は悪戯好きで、人をからかって楽しむ様な小悪魔的性格
いや、小悪魔なんてかわいらしいものじゃないかもしれない
「ったく。心配して損した」
「私も慌てて損したわ」
あ、でも。なんて思い出したようにこっちに振り向き
「心配してくれてありがと」
なーんて。素直にお礼を言われたもんだから反応に困った
曖昧な返事を返し歩を進める
くそっ、悔しいけど遠坂って可愛いよな。さすがアイドルと言われてるだけはあると思う
・・・・しかし、やっぱりこうやって遠坂と登校するのは心臓によろしくないと思い知らされる
遠坂を見る目なのだろう。周りから視線を感じ落ち着かない。前方の生徒なんて先ほどから何度も振り返って見ている
それなのに遠坂は顔色ひとつ変えずにこの視線を受け止めている。こいつはいつもこんな視線を浴びているのか
こりゃ気が抜けないな。クマの1つでも気を使うわけだ
しかしこの視線。少なからず憎悪をいうものを感じるのは気のせいだろうか
そんなはずはないのだが槍のような物が背中に突き刺さってる気がする
「士郎こそ疲れてるんじゃない?」
「いや、そんなことはないぞ」
「だってさっきから表情が暗いわよ。私と歩いてるのにその表情はないんじゃない?不満?」
「そういうわけじゃない。ただやたらと注目されてる気がして落ち着かないだけだ」
「んー。確かにそうね。今日は視線が多い気がする・・・・髪型もちゃんとしてきたつもりだけど変?」
「大丈夫だ。変なのはお前の神経だよ」
「どういう意味よ」
「いつもこんな視線を受けてるのか。俺には耐えられないぞ。胃に穴が開きそうだ」
「別に堂々としてればいいじゃない。私の弟子なんだからこれくらいの視線くらい耐えてもらわないと」
「努力する。一朝一夕では無理みたいだけどな」
「それじゃあこれからこの視線に耐えられるように鍛錬。じゃ、またね」
軽く手を振りながら自分の教室へと消えていった
最後に何か酷く胃が重くなるようなことを言わなかったか?
視線に慣れる前に本当に胃に穴が開きそうだな・・・・しかし一体どんな鍛錬をさせられるのか
ガラッと自分の教室に入る
「おはよー」
・・・・っと。な、なんだ?男子生徒が固まってこちらの様子を伺っている
ああ。そうだ。あれは先ほどまで感じてた憎悪の視線・・・・ってなんかすんごい嫌な予感がするんですけど
よし。気づかなかった事にしよう。そう決めて自分の席へ行こうと一歩
ポンッと肩に温かみが。あー、後ろ振り向きたくないなぁ
「衛宮。聞きたい事があるから一緒に体育へ行こうぜ。決して1人で行くなよ」
笑顔だけど笑っていない。こんな時の笑顔ほど怖い物はないと本当に思う
何を言われるのか想像はつくが先に返事の予行練習でもしておくか。無駄にはならないはずだ
藤ねぇの長いHRのせいで更衣室へは走って向かうことになった
1人で行くなと言われたが仕方がない。遅刻するわけには行かないので彼を置いて一足先に着替えを終了させた
「衛宮、お前遠坂さんとどういう仲なんだよ」
軽いランニングを終え、ストレッチをしてると横からボソボソと声をかけられた
それにしては直球だな、だが全く予想通りの質問。過去に何度か訊ねられた事があるので別に戸惑う事もない
「ただの友達だ」
しかしこう授業中に聞かれるは困る。なぜだか今日は機嫌がいい体育の先生だがいつ気分が変わるかわからない
以前、機嫌が悪いの察する事が出来なかった生徒が体育が終わるまで延々とグランドを走り続けていたからな
あれは特別に陽射しの強い日で見てるこっちが倒れそうになった。あれの二の舞になるのは願い下げだ
「嘘付け!遠坂さんと仲良くご登校しといてそれはないだろう」
「あれは偶然だ。偶然にも遠坂が居て偶然にも話が続いたから偶然にも一緒に来ただけだ」
「本当かよ」
「友達なんだから別に普通だろ?」
「友達だからってなぁ。俺は遠坂さんが朝の登校中に他の生徒と仲良くご登校。なんて見たことがないね。お前以外」
「そんなことはない。美綴だって居るだろう」
「あれは女だろ。男で遠坂さんと話す奴なんて生徒会長と慎二くらいだぞ」
ふむ。確かにそうかもしれない。あまり遠坂が他の奴と話してるとこ見たことないな
「いつの間に会話をするような仲になったんだよ」
「さぁ。忘れたな。確か一成が遠坂と喋ったりするからそれで喋るようになったんだよ」
適当に言う。本当は聖杯戦争からなのだが、まぁ嘘ではないのでいいだろう
実際一成と遠坂は喋ったりするわけだし、違うと言えば仲良さげにではなくどちらもトゲトゲしい会話だが
「ああ。そういえば衛宮、生徒会長と仲がいいよな」
「これで納得しただろう」
「ふーん。しかし羨ましいなぁ。俺にも遠坂さん紹介してくれよ」
・・・・・・は?紹介?
つい間が空いてしまう
「集合ー!」
お、助かった。変に間が空いてしまって何を口に出したらいいかわからなくなってたところだ
小走りで先生の下へ集まる
「先週決めた班に分かれてバレーだ。まずはAとBで審判はCだ。Dは観戦」
俺はDだから観戦か。壁にもたれてそのまま座る
「衛宮、俺も遠坂さんと喋ってみたいんだよ」
っと横に自然に座ってきた。そういえば同じグループだっけ
「紹介・・・・か」
遠坂に男を紹介。言い方がどうあれ遠坂がすんなり話すかどうか
いや、話す事は話すだろう。優等生が同じ学校の子を無視なんて出来るまい。だからこそ後で何か言われそうだ
そんでもって1人紹介すればまた1人そしてまた1人・・・・ってネズミ方式になった日には俺の命なんてない
きっと強烈なガンドが待ってるに決まってる。う、鳥肌立ってきた
「紹介は出来ない。自分で話しかけろ」
ちぇっと残念そうに肩をすくめる
しかし・・・・遠坂の人気はすごいな。
自分も憧れてた1人だった。もし俺が彼と同じ立場だったら確かに遠坂と仲いい奴は気になるかもしれない
それで遠坂と付き合うことになどなっていたらどんな魔法使ったんだと問い詰めるだろう。いや、きっと問い詰める
「いいなー。じゃあ今一番遠坂さんと付き合える可能性を持つのは衛宮ってことか」
「・・・・はい?」
今なんと申されましたか?
「何とぼけてるんだよ。衛宮もそのつもりなんだろ?羨ましいよなー」
俺と遠坂が付き合う・・・・・?
付き合うってことはあれだよな。その、友達とは違ってデートしたり手を繋いだりするやつだよな?
俺と遠坂が?いや、確かに聖杯戦争の時には手も繋いだしデートもしたけど
でもそれ以上は特にこれといったことはなくて。いや、遠坂のご飯を食べるのは結構特別・・・・・?
「何唸ってるんだよ。まさか否定するつもりか?」
「否定するも何も考えたことがなかっただけだ」
「はぁ!?まじで言ってんの?ありえねー。遠坂さんのこと女として見てないってこと?」
「そんなわけない。あいつは女の子だ。女の子以外の何者でもない」
「なら好きとかそういう感情はないわけ?」
「すっ・・・・」
好き?俺が遠坂を?いや、嫌いじゃないぞ。うん。それは断じて言えるけど
「衛宮、顔赤い」
「お前が変な事を聞くからだっ」
「別に変な事じゃない。一般人としての質問をしただけだ。あーあ。時間の問題か」
はぁと大袈裟に溜息を吐き出し、彼はその場から立ち去った
俺はというと何か言い返さなければいけないと思うのだが、口は鯉みたいにパクパクと開くだけで声が出ない
いかん。このままだと変な噂が彼の口から流れるのではないか?でも何もないのに口止めするのも怪しくないか?
だって俺と遠坂はそういう仲じゃないんだし。でも流れるとお互い困るし・・・いや、別に俺は困らないけど・・・・
「あ、衛宮くん」
へ?
声の方を向くと体育館の真ん中にかけられた、大きなネットの向こうに可愛らしい女の子
「一緒に体育館でバレーって珍しいね」
なんて言いながら笑いかけてくれるのは三枝さんだ
「おはよう三枝さん」
「あ、おはよう。言い忘れてたね」
にこやかに笑う彼女はそこに居るだけで空気を和やかにしてくれる
「げ、衛宮」
天使の笑顔に癒されていた俺の心は黒い豹の出現によってかき消された
「蒔の字。そのような挨拶では衛宮殿を不愉快にするだけだ。たまには由紀香みたいに笑顔で挨拶をしてみてはどうだ」
「気持ち悪い事言うなよ鐘っち」
全くだ。そんな日が来たら槍でも降ってくるんじゃないかと1日中冷や汗をかかなければいけない
「おはよう氷室さんに蒔寺」
「あたしだけ呼び捨てかよっ!」
「おはよう。うむ。そういえば体育は本よりC組との合同であったな」
「そうだったな。ところで女子はソフトボールじゃないのか?」
教室を出る時に女子が今日は誰がピッチャーをするやら配置決めで騒いでいたはずだ
そこに藤ねえが入ってきて「あたしがピッチャーしようか?」なんて事を言って余計話をややこしくしていた
・・・・まぁ藤ねえがピッチャーなら並大抵の女子なら打てそうにない。それか驚くほどの暴投を投げるかのどっちかだ
「その予定だったんのだが急遽予定が変わってな」
「先生が休みなんだよ。インフルエンザとか言ってたなー」
「だから今日は衛宮くんのとこの先生が一緒に体育を見てくれるんだって」
「そうか。でも普通なら他の女子担当のところに行かないか?」
「他のところがマラソンだったのでな。それならばバレーの方がよかろうと皆で先生殿に申し出たのだ」
なるほど。今日は機嫌がいいと思ったらそんな事が。きっと自分は頼りにされてるとでも思ったのだろう
「あたしはマラソンでも良かったんだけどねー。まぁバレーでもあたしの独壇場さ」
シュッシュッとアタックの練習なのか腕を振っている
うむ。確かにこいつならネットの上まで飛んで目にも留まらぬアタックを打ちそうだ
「あたしが陸上得意じゃないから」
「由紀香、君のせいではない。他の女子や私だってマラソンは御免だ」
「そうかな」
「俺もマラソンは嫌だな。休憩を挟むとしても何故2時間も走り続けなきゃいけないのかがわからない」
「そうだよね。あたし初めの1時間でまいっちゃうから」
今日はバレーで本当によかったと笑っている
ああ。この顔を見たらきっと皆だってバレーでよかったと思えるだろう
「ところで衛宮殿はバレーを得意とするのか?」
「人並みには。あまり身長がないからな」
「そうかな?衛宮くん高いと思うよ」
「あー。あたしからしちゃ全然ダメ!後10センチは高くなきゃ」
「む。何気に気にしてるんだからな」
「へー・・・。そうだ!鐘っちちょっと」
何やらニヤニヤと楽しそうだ。あまりいいことが起こりそうにないと思うのはなぜだろう
「次、CとD」
いつの間にか試合は終わったようで次は俺の班みたいだ
「それじゃあな」
軽く手を振りコートに入るとなぜか氷室と蒔寺も一緒について来た。その後ろにはおどおどと三枝さん
意味がわからず立ち止まるとそのまま俺を置いてズカズカとコートを抜ける
どうやら俺についてきたのではなくて先生のところへ向かったようだ
何やら蒔寺が手をあれこて動かして説明をしているみたいだが、いまいち通じてなく氷室が簡潔に用件を述べているってところだろう
先生は困ってるようだが直に納得したのか「集合ーっ」とまだ勝負が決まっていないのに試合を中断された
何事だと騒ぐ男子とすでに何をするか知らせてあるのか落ち着いている女子
「えー。珍しく男女がバレーなので今日は混合でしてもらうことにした。
各自チームを組んで始めろ。5分以内に決まらない場合は俺が決める」
どうやら蒔寺たちは混合でしたいと申し出たようだ。意図はわからないけどたまにはこういうのも楽しそうだから皆はノリ気だった
ざわざわと動きだしそれぞれにチームを組んでいく。さて、俺はどこに入れてもらおうか
キョロキョロと周りを見ていると突然腕を引っ張られ
「衛宮、何してんのさ。お前はこっちだよ」
すでに集まってるというグループに連れて行かれた
どうやら俺に選択権はないらしい
「蒔ちゃんこっち!」
三枝さんが手を大きく振ってこっちだと知らせてくれてる
おい蒔寺、お前はどこに連れて行くつもりだったんだ。そっちは出口だぞ
ひとつ文句でも言ってやろうとしたがそのままずるずると引っ張られて行き、前に倒れるのを踏ん張るに精一杯だった
こいつ俺を旅行とかで使うゴロゴロするやつと勘違いしてるんじゃなかろうか
「衛宮もか」
聞きなれた声と同時に歩が止まり、やっと手が離された
「美綴、お前も引きずられてきたのか?」
「おあいにく様。あたしはちゃんとご招待してもらったよ」
けらけらと笑っている。俺が運ばれてくる様子を見ていたのだろう
周りを一瞥して誰が居るのか確かめた
今話してる美綴にそれを眺める氷室と三枝さん。そして何度か顔を見た事のある陸上部であろう男子2人とその横には一成
「一成も居るのか」
「うむ。衛宮が居ると聞かされたのでな」
これは心強い。横に並ぶ男子とも挨拶をして男は男同士で喋ることにした
話を聞くところ彼らも蒔寺と氷室(主に蒔寺)に反抗する暇もなく連れて来られたらしい
あいつらはどこでも同じことをしているのか。やっぱり何か文句のひとつとなぜ混合にしたのかを問う為に蒔寺を探す
が、俺を引っ張ってきた張本人の姿が見当たらない。むむ。さてはまた誰かを・・・・・
「お待たせー!」
声の主は右手を高々と上げ、左手には予想通り誰かを連れて来たらしい
次は誰だと、後ろに居る奴を見ると見慣れた黒いリボンがひらひらと動いている
「お、やっと来たか」
美綴が俺の時と同様その人物を迎え、氷室さんは女子まで引っ張って来たのかと呆れ
三枝さんは何やら欲しかったおもちゃを買ってもらったかのように目を輝かせている
そして俺の横に並ぶ男子2人はおお・・・・!などと声をあげており、一成はというと彼らとは全く逆の表情を浮かべていた
「ちょっと蒔寺さん?会うなり有無を言わせず引っ張ってきてどういうことかしら?」
突然のことで少しご立腹のようだ
「別にいいだろ。まだ誰とも組んでなかったんだし」
「だからと言って強引に引きずり回すのはよくないと思うのだけど」
「早く連れて行かなきゃ他の奴らに盗られるしな。獲物を見つけたら瞬時に捕獲すべし!」
その獲物を捕らえた事が嬉しいのか出鱈目な口笛を吹いている
ふう。と1つ溜息をつき、その人物は落ち着いたのかグループの人らによろしくね。なんて営業スマイルを撒いていた
「あら、衛宮くんも一緒なんだ」
ちなみに俺は男子2人のように声は上げず、一成のような表情も浮かべずに
ただ驚きで言葉を失っていた
「?衛宮くん?」
「あ、よう。よろしくな」
視線を今まで見てた物から逸らしニスによって光る床に移す
そうだ。遠坂だってA組じゃないか。こういう可能性だってありえたのだ
そもそも美綴と蒔寺が居る時点で気づくべきだ。先に予測していたらこんな事にはならなかったのに
あー・・・・・なんだって俺はこんな事でドキドキしているのか。体の芯が熱い
言葉を失ったのはつまりだ。遠坂の見慣れないジャージ姿に見入ってしまったのだ
学校指定ジャージも遠坂が着ていると華があるように見えるのが不思議でたまらない
「じゃ、メンバーが決まったところでチーム決め!」
「待て。1人足りぬ。これでは4対5になってしまうぞ」
「えー。それなら生徒会長、誰か連れて来てよ!」
「む。俺に押し付ける気か」
「いいじゃんいいじゃん。衛宮も連れて行っていいしさ!」
ふむ。と仕方なく納得した一成と一緒に後1人を探す
周りではほぼグループが出来上がっている。さて、誰を呼ぼうか
まぁ俺ら2人の共通の友達なんて数が限られているわけで
「よろしく」
連れてきた男の笑顔に普通の女の子ならキャー。なんて黄色い歓声が出るものなんだか
ここに居る女の子は違うらしく
「間桐か」
「うむ。間桐だな」
なんてボソボソと話している
当の本人はそれに気がついていないのか
「やあ遠坂、呼んでもらって嬉しいよ」
美綴の横に居る遠坂に極上のスマイルを送っていた
「こんにちわ間桐くん。でも残念ながら呼んだのは私じゃなくて衛宮くんと柳洞くんよ」
「どっちでもいいさ。他の女の子と組むのをやめて来たかいがあったよ」
慎二は人懐っこい笑顔でニコニコと笑っている。この笑顔に女の子は落とされるのか
だが笑顔を送る相手には通じないみたいで、そう。なんて言葉でかわされていた
「まぁ誰でもいいや。じゃ、今度こそチーム決め!」
俺らのグループは集まるのが手間取ったので、すでに決まった他のグループがバレーを始めていた
これでゆっくりとチーム決めを出来る。まずは身長を考えて決めるのか?それなら俺は慎二と同じくらいだから・・・・・
「あたしと衛宮は別チームで!」
「──ちょっと待て。なんだその決め方は」
「だってあたしと衛宮のアタック勝負をするんだから別々じゃないとおもしろくないだろ?」
「いつの間にアタック勝負になったんだ。聞いてないぞ」
「最初からに決まってるじゃん。そんなこといいから早く決めよ!」
ってことで俺と蒔寺を除く8人でグッパーをしてチームが決められた
氷室さんに聞いたんだがどうやら身長の話をしていた時に
『あたしの方が少し身長が低いけど衛宮より飛べるバシンッとアタックを打って衛宮を負かしてやるのだー!』
などと張り切っていたらしい
俺はそんな身勝手な勝負に巻き込まれ、俺の傍らに座っている一成や美綴もただの人数合わせとして連れて来られたのか
申し訳ない気もするが別に俺自身が悪いわけでないので謝っても仕方がない
まぁこんなのもいいだろう。勝負事は嫌いじゃないし俺より身長の低い、それに女の子に負けるわけにはいかない
俺にだってプライドはあるんだから
試合が終わり、交代でコートに入る
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