共に歩く ─3─  






「遠坂ってさ。衛宮と付き合ってんの?」


突如、更衣室へ向かう途中に蒔寺楓にそんな事を聞かれた


「なんでそう思うのかしら?」
「最近、仲良さそうだし」


それにと何かまじまじと品物を定めるかのように上から下へと視線が移り


「衛宮のジャージ着てるし」


ニヤリと彼女の口元が上る


「寒かったから衛宮くんが貸してくれただけです」
「だからそれが怪しい」


何が怪しいと言うのだ


「だって今までどんないい男からでも、受け取らなかっただろ?」


・・・・・確かにそうだ。
今までだって男の子から服を貸すやら傘を貸すやらと色々あった
でも、全部断った。だって受け取る理由もないし


「なのに衛宮のジャージは着てるし。怪しいと思うのが普通だ」
「そうそう。あたしも思ってたんだよね。そこらへんどうなの?」


美綴綾子が会話に参入してくる
私は自分の服を入れたロッカーに向かいながらジャージを2枚脱いだ


「想像にお任せします」
「か〜。なんだよそれ。言えよなー」
「あたしらの仲じゃないか」


相手にせず体操着を脱ぎ、すぐさまカッターを着てスカートを穿く
カッターは冷たく、せっかくジャージで暖めた体温を奪っていった


「んー。でも衛宮だしなぁ」


ピクッ
ズボンを脱ぐ手が一瞬止まる


「だからこそありえるかもしれないだろ」
「衛宮と遠坂、遠坂と衛宮、衛宮遠坂衛宮遠坂衛宮遠坂・・・・・・」


なにやら人の名前をブツブツと呪文みたいに唱えている


「まぁ遠坂なら別の男が現れるかもしれないしね。衛宮じゃもったいないかー」


ピクピクッ
脱いだズボンをたたみながらも、耳は常に後ろで話している2人に向けられている


「衛宮がその気にならないうちに他の女の子でも紹介するか」
「お?何々?衛宮狙いがいるとか?」
「実はね。あんな旦那さんが欲しいと言っていたな」
「へー。あいつってもてるの?」
「基本的に優しい男だからな、思いもよらないことでコロッといってしまうんだろう」
「うわー!悪の男だね。敵ながらあっぱれ!」


けらけらと笑うその声が今はなんだか感に触って仕方がない
ふんっ。一体どこのどいつよ


「なぁ、遠坂も手伝ってやりなよ」
「なんで私が見知らぬ人の恋沙汰を応援しなければいけないのかしら?」
「だって衛宮と仲がいいだろ。ちょっと力を貸してくれるだけでいいからさ」

「お断りします。それに」


──それになんなのだ。一体私は何を言おうとしているんだ


それに?と首をかしげる2人


・・・・。士郎に悪い虫がついてはいけない。ほら、私の弟子だし魔術の修行に差支えがあったら困るじゃない
ただでさえ才能がないんだから他の事してる暇なんてない
だから別にこれくらい言ってもいいんじゃないの?


「私と衛宮くんはただ仲がいいだけの関係じゃありませんので。邪魔しないでもらえるかしら?」


石のように固まった蒔寺と綾子を置いて更衣室を出た


その後は士郎に上着を返し、教室に戻ると2人から意味ありげな視線を送られた
それに気を取られることもなく、いつも通り授業を終えた私は自分の家に帰り
1人なので適当なメニューで晩を済まして、夜は暖かい布団に包まって1日の疲れを癒す
明日のお昼は何を食べようか。トマトサンドもそろそろ飽きてきたから明日はうぐいすパンにしようかな
なんて考えてるといつの間にか夢の国へ旅立っていた






   ***





「人間は生きる葦(あし)と呼ばれてて、葦というのはストロー状の草であり、風なのでたやすく折れてしまいそうなほど弱い草です
 人間は一滴の水、30センチの高さから落ちても死んでしまう弱さからその草に例えられています」


などと説明をしているのは倫理の新米教師。葛木の代わりに急遽やってきた先生だ
突然、何の前触れもなく消えた葛木は現在、行方不明扱いをされていて一時話題になったが
今では葛木の名前もあまり聞かなくなった
魔術協会が何か手配でもしたのだろうか、例えばあの新米教師の話を聞くと葛木なんて人物を忘れるとか
・・・・・。ありえる
遠坂に聞いたところあの新米教師は魔術協会からの手配で来たみたいだし
人1人忘れさすことなんて容易にしてしまいそうだ


だが俺は忘れることなんて出来ないし、忘れようとも思わない
あの人は確かに居た。この学校で教え、聖杯戦争で俺と戦ったのだ
キャスターと共に戦った男、強化された手から繰り出される拳はセイバーでさえ初めは戸惑い
「蛇」という名の技はその名の通り、蛇に噛まれたかの如く掴んだ肉を貪った
マスターとサーヴァントの在り方が逆だった男。俺は覚えている。彼の不器用な在り方を、彼の消えた時を
それを忘れるなんて寂しすぎるだろう。確かに居た、その存在を忘れるなんて───



キーンコーンカーンコン



チャイムの音と同時に皆は席を移動し、それぞれに弁当を広げたり、肉の味しかしない食堂を食べに行ったりする
俺は生徒会室で食べようと席を立った
一成に声をかけようとしたがすでに一成の姿は見当たらない
何か急の用事でもあったのだろうか。いつもなら誘ってくれるのに
まぁ生徒会室に行けば何時も通り座っているだろう。俺も行くか



ガラガラ


「「 あ 」」


っと、遠坂にばったりでくわした


「うちのクラスに何か用か?」


珍しい。こいつがうちのクラスにやってくるなんて


「誰に用あるんだよ。呼んでやるぞ」


しかし・・・・・はて、うちのクラスに遠坂と関わりがある人間が居ただろうか
慎二・・・はまずありえないな。一成なんてとんでもないし
む。なにやらみるみるうちに遠坂の顔が不機嫌になっていく
やばい。また俺は軽率な行動をしてしまったのか


「私がC組に来る用事なんて1つしかないでしょう」
「え?」
「ほら、ついてくる」


そのまま遠坂は歩いていく
わけがわからなかったが、とりあえずあひるの子のように後をついていくことにした
向かった先はお馴染みの屋上
強い風が俺たちを出迎える
・・・・・・寒い。
こっちと手招きをされて遠坂の横に腰を下ろす

何か話があるのかと思ったが、遠坂は何も話さずうぐいすパンを食べ始めた
今日はトマトサンドじゃないのか。なんて見てる場合ではない
自分の弁当を広げ食べ始める

半分ほど食べ終わるが遠坂は一向に口を開けない
これは俺から聞けという合図なんだろうか
色々と考えるが結局女の子の気持ちなんてわからないので素直に聞く事にした


「っで。どうしたんだ?」
「何がよ」
「いや、何か用事があったんだろ?」


例えば金欠だとか、口に出しそうになったがなんとか心の中だけに押しとどめた
そういえば以前、同じような事を言ってあんぽんたんだとか言われたっけ
あの廊下の静寂は忘れられないなぁ・・・


「何よ。用がないと一緒にお弁当も食べちゃいけないって言うの?」
「いや、そういうわけじゃない。・・・・ってえ?」

「それなら次からはちゃんと用事作ってから誘うわよ」


ふんとそっぽを向かれた
しばし思考回路停止



・・・・・・・・・・・・・・・・



動かない頭を動かしてみよう
えーっとだ。つまりだな

遠坂は俺と昼を食べたかっただけってことか?
拗ねているのかうぐいすパンをボソボソと食べている

───やばい。なんか可愛いぞこいつ


「いや、用事なんていらない」
「どっちなのよ」
「うん。用事なんてなくてもいいからいつでも昼を誘ってくれ」
「む。普通こういうのって男の子から誘うものじゃないの?」
「誘ったら来てくれるか?」
「士郎次第」
「なんだそりゃ。どうしたらいいんだよ」


傍らに置いてあったお茶を一口飲み、目が合うがまたもや視線はうぐいすパンに戻る


「そろそろ売店も飽きてきたのよね」
「?そうか、なら今度は食堂に行くか?肉の味しかしないからあまりオススメはしないが」


ってことは俺次第って言うのは場所を提供しろとのことか?
遠坂と昼なんて屋上以外に印象がないし、遠坂もここを好きなのだと思っていたんだが違ったのか


「食堂なんてもっとお断りよ。あれサラダまで肉の味するじゃない。1年の時に食べて後悔したわ」
「ならなんだよ」


食堂でも売店でも駄目。ならちょっと学校を出て食べに行くか?


「授業間に合わないじゃない。走って帰ってくるなんて疲れることはしたくないし」
「ならどうしろと。俺にはわからないぞ」


もぐもぐと箸を進める。考えるには脳に栄養を与えないとな

もぐもぐ、もぐもぐ・・・・・・・もぐもぐ?


「あ」


そっか。食堂でも売店でも食べに行くのでも違うのなら、これしかないじゃないか
遠坂も教えるようにじっと俺の持つ、弁当箱を見ていた


「そんなのでいいのか?」
「手抜いたら怒るけどね」


士郎のお弁当食べてみたかったし。なんて言ってもらったからには明日から気合を入れて作らなければ


そこからなんでもない話を続ける。それだけの時間がなんだか有意義だった
それは横に居る遠坂は学校の遠坂凛であることを忘れたように、笑っていたから
つい最近見れるようになってきた表情。きっと皆はこんな遠坂の一面を知ることはないんだろう
本当はこんなに年相応な女の子なのに、魔術師というだけで皆から離れて
こいつは今まで寂しい学校生活を送ってきたんじゃないかと思う
群れることもなかっただろうし、部活にも入らず、完璧な優等生を通す
それは魔術師としては完璧なのかもしれないけど、遠坂凛としての人間にとってはどうだったんだ?


───よし。決めた。最後の1年は遠坂を楽しませてやろう
遠足、球技大会、文化祭、体育祭と行事はたくさんあるんだから
今までの分も一緒に楽しんでやりたい


「何笑ってるのよ」
「いや、なんでもない」


考えるだけで楽しくなってきた。これから遠坂を楽しませるための計画をしなければ
生半端な考えじゃダメだ。完璧に楽しませてやる。それで笑ってくれれば苦労なんて吹き飛ぶんだから

チャイムが鳴り教室に戻る途中も計画がどんどん出てきてつい笑みが零れてた
なんでこんなことで楽しくなっているのだろう。わくわくして、また笑みが零れると気味が悪いと言われた


学校が終わると新都へと足を運び、コペンハーゲンへ向かった
いつも通り作業を済ませ、昨日のバイトが残した仕事までも終わらせ、店長とネコさんと他愛もない会話をして帰宅した
今日もよく働いた。右手には明日の準備まで手伝ったので店長からの日本酒が持たされている
ありがたい。今日は帰りが遅くなったけどこれで藤ねえの機嫌もとれるってものだ






   ***






キーンコーンカーンコーン


チャイムの音に目が覚める。珍しく寝てしまったようだ
昨日は藤ねえに日本酒を見せると今すぐ飲もうと3時くらいまでがちゃがちゃ騒いでいた
もちろん俺も付き合うことになり、飲めない俺の代わりにセイバーが酒を交わしていたのだ
まぁそのせいで寝るのが遅くもなった。セイバーが強いものだから藤ねえが負けじと飲むわ飲むわ
今度からセイバーには酔ったふりをしてもらおう

そうしてもらわなきゃ酒の消費が早く、食費だけでもかかってるのにそっちにまで手が回せない
大半は藤ねえが若い衆から貰ってくるのだが、それもいつまで補充がきくかどうか
昨日セイバーは日本酒の味を知ってしまったようだし
まるで水を飲むかのように流し込んでいた。さすが王様、お酒には強いんですね

台所の下に入れておいた酒は後どれくらいあったっけ。
藤ねえが次飲むとしたら金曜日の夜だろうからそれまでに藤ねえのところの者に頼みに行こうか
そんな事を寝ぼけ頭で考えていた。起きて速攻、食費のことなんて考えたくないものだ。俺は普通の高校男児なのか不安に思う

・・・・・・まぁ実際普通の高校男児じゃないわけだが
魔術師の半人前、聖杯戦争経験者、過去の英雄と暮らしている。どこが普通なんだと自分に問う。
ちなみに藤ねえは朝になるとケロリとしていて、まるで昨日のあの騒ぎようは夢だったんじゃないかと思わせた
だが台所の脇に空になった日本酒が2本寝転がっていたので夢ではないと律儀に教えてくれた。いっそ夢ならよかったのに
それなら奥から引きずり出してきた俺の幼い写真たちをセイバーに見られることもなかったのだ
それに、なんだろう。何か大事な事を忘れてるような気がしてならない


そろそろ立ち上がらなければ掃除を手伝われそうだ。
今日はバイトもない。早く家に帰ってセイバーと稽古でもするか
一度体を伸ばして鞄を持った。準備運動がてらに走って帰るかな、ガララと廊下に出る


「衛宮」


なんと、珍しくも慎二に声をかけられた


「よう。忘れ物か?」
「違うよ。衛宮さぁ、その様子じゃ今から用事もないんだろ?」
「ないけどなんだよ」


まさかいつかみたいに掃除を代わってくれとか言うのか?
悪いが今日の俺はそんな気分ではないし、もう掃除は代わらないと決めたんだ
なんたって代わったことで俺はあの日、一度死んだんだからな


「じゃあ付き合えよ。今から遊ぼう」
「別にかまわないが何をするんだ」
「ゲームでもなんでもすればいい」


そんなことで急遽、慎二の家にお邪魔することになった
衛宮家と正反対の坂を上ると大きな洋館が見えてくる
間桐家の人数を考えると大きすぎる家だ
ギィ
錆付いた音と同時に門が開く。こうして入るのはいつぶりだろうか
玄関をくぐりつい、周囲を見てしまう
以前のようにライダーの姿はない


桜はまだ部活みたいで姿が見えなかった
って慎二、部活は?


「ああ。今日は休んだんだ。調子が悪くてね」


ぐるんと腕を回しているが嘘か本当かはわからない
慎二の部屋に行き予定通りテレビゲームでもしようと用意を始めた
慎二はトイレにでも行ったのか、仕方なく客人である俺が用意をしている
中学のときとゲームの置き場所が変わってなくてよかった
しかしカセットは色々と増えている。どれをやろうか
RPGや恋愛シュミレーション。そんなのしても仕方がない
格闘ゲームでいいよな、適当にボタンを押しておけば平気だろう。それにやってるうちに慣れてくるし
準備完了。慎二は見計らったかのように部屋に戻ってきて隣に腰を下ろした


ピコピコ バキューン ガシャーン


「今のずるくないか」
「策略のうちだ」


ピコピコ バァーン ドーン


「裏技はなしだろ」
「策略のうちなんだろう」


ピコピコ


「慎二。さっき見たんだがベットの下で本が散乱してたぞ」
「ああ。好きなの持って行ってもいいよ」
「違う。あんなところに置いといたら桜に見つかるぞ」


バギッ


「かまわないさ。それに桜は滅多に僕の部屋に入らないしね」
「桜は入らないかもしれないけどお前は他の子連れて来るだろ?せめてちゃんとまとめてもっと奥に入れておけよ」
「そこらへんにぬかりはないよ。でも人聞きが悪いな。まるで僕がいつも連れてきてるみたいじゃないか」


ピコピコ


「学校で女子数人に囲まれてたらそう思われるのは仕方がない」
「まぁもてる男のさだめってやつだよ。衛宮にも紹介してあげよか?」


バギューン


「遠慮しとく」
「衛宮っていつもそれだよね。つまらない男。興味ないとか?」
「そんなわけない。健全な男子高校生だ」
「ならたまには合コンにでも付き合えよ」


自分がその場に居る想像が出来ない


「いつかな」
「遠坂が居るから行かないのかい?」


突然出てくる名前に驚き、誤ってボタンを押してしまう
慎二のずるい裏技を真っ向から受け止めてしまった


派手な音と同時にWINとLOSTの文字が浮かび上がってくる



「どっから遠坂が出てきたんだよ」
「聖杯戦争が始まってから仲がいいだろう。屋上から2人で降りてくるところとか見られてるみたいだよ。
 隠してるならもっと上手くするべきだな」
「いや、別に隠してるわけではないんだが」
「へー。遠坂と付き合ってるのか?」
「付き合ってない。皆の多大なる勘違いだ」
「そうだよな。衛宮と遠坂じゃ釣り合わないもんな」


む。そんなの自分がよくわかってる。だが他人に言われると気が良くない


「ははは。何?怒った?だってそうじゃないか。遠坂には僕みたいな男とじゃないと釣り合いがきかないさ」


慎二と・・・遠坂?


ガガァーン


「あ」
「僕の勝ちだな」


しまった。集中力が切れてしまった


「次だ次」
「こりないなぁ。違うゲームをしよう。そろそろ飽きた」
「飽きたってまだ少ししかしてないぞ」
「だって衛宮弱いし」
「悪かったな。じゃあ、古いけど昔よくやってたやつをしよう」
「かまわないよ。そこらへんにあるから探してくれ」


指された場所にはダンボール箱一杯に何かが詰まっていた
手間がかかりそうだか仕方がない。ダンボールの前に座り込む


「きっと遠坂も僕みたいのがいいと思うんだ」


またもや唐突にそんな事を言い出した


「なんでだよ」


がさごそと漁りながら背中で聞く
しかしなんでも入ってるなこれは。ゲーム以外の物がほとんどじゃないか


「なんでってあれだよ。直感?」
「それはよく当たるのか」
「当たり前だろう。衛宮と違って女の子のことはよくわかるからね」
「なら遠坂は慎二と付き合うのか?」
「さあ。遠坂は素直じゃないからな。よく弓道来てたの知ってる?
 あれ僕を見に来てたんだろって言ったら照れて怒ってさ。可愛いだろう」


多分それ普通に怒ってたんだと思うぞ。そして見に行ってた理由は多分桜だろうと思われるが言わないでおこう


「聖杯戦争とやらも終ったし、そろそろ本気で遠坂にアタックしようと思ってね」
「なぜ俺に言う。あ、あったぞ」


やっとお目当ての物を目付け出した
それまでに見つけた物は他のゲームが6本と漫画8冊。写真が数枚、一定年齢以上の方が見る本などなど。
まぁほとんどが最後の物だったんだが。この部屋は宝庫だな
早速セットして元の場所に座った


「だって友達だろ?協力してくれるよな」
「何言ってるんだ。俺の協力なんていらないだろ」


ピコピコ ババーン バキッ


「用心に越したことはないだろ?それに衛宮やたらと遠坂と仲が良さそうだからね」


ドゴッ


「そうでもない」


ダァーン


「なら安心した。まだ衛宮の家で暮らしてるのかと思ったよ」


あー。たまに家に来るくらいだが言わないでおこう
火に油を注ぐようなものだ


ガギーン ピロロロロローン


「う」
「弱いなぁ」
「久しぶりだから慣れてるまで待ってくれ」


ピコピコ バシッ ドーン


「ところで衛宮は遠坂が何を好きか知ってる?」
「遠坂の好み?食べ物なら作った物はなんでも食べる。これといってないけど辛い物が結構好きなんじゃないか」
「誰も食事のことなんて聞いてないよ。まさか遠坂にまでご飯作ってたわけ?」
「当たり前だろ。まさか遠坂だけのけものってわけにはいかない」


ガーン ドドドドドドドッ


「へぇ。まるで召使いだな。遠坂にいいように使われてるんじゃないの?」


ガガガガガッ ドーン


「そんなことない。思い過ごしだ」
「そうかな。遠坂はそう思ってないんじゃないか?」


バババババッ ピロロロローン


「どういう意味だ」
「遠坂が衛宮と仲がいいのは利用されてるんじゃないかってこと。心配してやってるんだぜ?」
「杞憂だ」
「どうかな。それともうひとつ」


ピコピコ バキッ 


「遠坂のこと好きじゃないんだよね?」


ドゴーン



「───・・・っ」
「好きじゃないなら必要以上に遠坂と一緒に居ないでくれ。簡単だろ?」


ピコピコ


「好きな女の子が他の男と仲良くしてるのを見守れる程大人じゃないんでね」


バシッ ドーン


「それはあれか。遠坂がうちに来たりしたら駄目なのか」
「当たり前だろ。普通に考えろよ。なんで女が男の家にご飯を食べに行くんだか、信じられないね」


バキューン ピロロロロローン


派手な音と共にWINとLOSTの文字が浮かび上がってくる
だが今度は俺の勝利で飾った


「じゃ、セイバーが待ってるから帰る」


コントローラーを投げ、片付けもせずにズカズカと部屋を出た
玄関を出ようとした時


「衛宮、遠坂がお前と一緒に居るのは別にお前に気があるわけじゃないんだからな」


出来るだけ気持ちは抑えたはずだが、思ったより乱暴な音で戸を閉め、家に走った



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